書評:島根大学・寧夏大学国際共同研究所編『中国農村における持続可能な地域づくり』今井出版

書評 島根大学・寧夏大学国際共同研究所編『中国農村における持続可能な地域づくり—中国西部学術ネットワークからの報告—』今井出版、2017

 島根大学は島根県が中山間地域を持ち、かつまた近くに鳥取砂丘があるなどのことから砂漠と山間部によってなりたつ中国の寧夏回族自治区との深い交流関係を持ってきた。そして、それは寧夏大学内に国際共同研究所を設立、維持するといった本格的なものとなって毎年の研究集会を開催する一方、約10年に一度の研究書の出版をしてきた。本書は9年前に出版された前著=保母武彦・陳育寧編『中国農村の貧困克服と環境再生-寧夏回族自治区からの報告-』花伝社、2008年に続くもので、当地中国農村の「持続可能な地域づくり」に必要な諸テーマをさらに幅広く深めた内容となっている。

たとえば、農村金融の問題、出稼ぎ労働の問題、都市からの帰郷者の起業の問題、ダム建設に伴う移住者支援の問題、プラスチック廃棄物処理の問題、家庭エネルギー需給の問題、砂漠化防止事業に関する問題、荒漠地区の植生変化の問題、水田の養分補給と排水の問題、禁牧政策の影響の問題、食品食糧の安全問題が本書では深められており、さらにはこれらを総括するために「社会関係資本」の視角から全体像を論じる章と貧困克服と環境再生の観点から今後を展望する章とが冒頭と終章にセットされている。なお、寧夏自治区は民族自治区であるので、少数民族に関わる章も一章も受けられているが、当地の回族ではなく遠く離れた地区に分布する土家族に関するものにとどまっている。残念ではあるが、中国の少数民族問題研究は特別に困難なのでやむなしとすべきかも知れない。その意味でやはりよく調査された良書であると考える。

(慶應義塾大学教授・大西広)

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