『2017年度通商白書』2017.8.12 <中川十郎>

このほど69回目の2017年度通商白書が発表され、8月2日その説明会があり参加した。

本年の通商白書のメインメッセージは下記である。トランプ政権のアメリカファースト政策や、TPPからの離脱、NAFTAや、米国―韓国FTAの再交渉、中國、日本をはじめ貿易赤字国との二国間交渉を目指す保護主義的な米国の対応に対し、日本としては下記、自由貿易の必要性を訴えているのが特徴である。

1.自由貿易は経済成長のエンジンであり、格差縮小にも寄与している。
1)自由貿易はパイ拡大に不可欠。貿易は一人当たり経済成長率を高める寄与度が高い。ミクロで見ても輸出に従事する企業は生産性を伸ばしていると分析。
2)米国を中心として先進国では格差拡大でグローバル化への不満が台頭している。しかし、格差は技術革新に起因する。貿易は格差縮小に貢献していると強調している。

2.21世紀型の通商政策が必要とし、
1)グローバル・バリューチェインの飛躍的発展で貿易は「モノ」から「価値」(モノ、ヒト、カネ、情報)へと変化している。(この意味でBISの情報研究は重要であると思われる=筆者注)
2)“自由貿易”への疑念の深まりを克服すべきだ。
3)「新新貿易理論」(個別企業の生産性とグローバル化が示唆するグローバル活動への参入支援策)が重要。

3.「21世紀型通商政策」は
1)イノベーションを支え、2)インクルーシブ(包括的)な成長を志向すべきだ。
(1)グローバル経済の発展には自由で公正な高いレベルの通商ルールが不可欠。
(2)モノ、カネ、ヒト、情報の自由な往来と「つながり」によるイノベーションを進め、「コネクテッド・インダストリー」や「SOCIETY 5.0」を実現する。
 すなはち「内なる国際化」(対内直接投資、高度人材受け入れ)、オープンイノベーションを推進。そのための通商・投資ルール策定を進める。
(3)中小企業や地域などをグローバル経済にいざない「インクルーシブ」な成長を実現する。すなはち市場調査、取引先開拓、流通網整備などのコスト引き下げや、生産性向上による体力強化で中小企業のグローバル活動参入を促す。
 また商社などを経由の間接輸出、eコマースの促進、新輸出大国コンソーシアムなどを活用した海外展開支援を行う。観光や農産品・食品など地域産品の輸出促進IT・ロボット導入などを通じた地域経済の生産性向上などを図るなどと抽象的な提言がなされているが、これは米国が脱退したTPP再構築の理由付けの感を免れない。むしろ日本としてはこの機会にASEAN+3や,日中韓のFTA、さらにRCEPの積極的推進やさらにアジアに軸足を置いた「一帯一路」や「AIIB」への参画を前向きに検討する21世紀型の新貿易政策の提言がないのは残念だ。この点を質問した。研究はしたが記載しなかったとの返事だった。

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