『TPPと一帯一路』2017年11月12日 中川十郎

BIS論壇 No.246 『TPPと一帯一路』2017年11月12日 中川 十郎

今月はTPP, APEC首脳会議がベトナムのダナン、ASEAN会議がフィリッピンで開催された。特にAPECは21カ国、地域の首脳が今後のアジア太平洋における経済、政治、安全保障などについて打ち合わせを行った。米国トランプ大統領は初のアジア訪問で、日本、韓国、中国、ベトナム、フィリッピンを訪問。各国首脳と積極的な貿易、外交交渉を行った。トランプ大統領はこの中でも、二国間交渉で貿易の赤字削減を進める意向を表明。TPPのような多国間交渉は行わない方針を鮮明にした。
にもかかわらず安倍政権はTPP11でAPEC会議中に交渉を妥結し、APECの場で関係首脳の同意を取り付けるべく全力を挙げた。日本のメデイアは、TPPは関係各国閣僚間で大筋合意に達し、首脳会議で承認。将来、米国もTPPに回帰するとのバラ色の楽観的報道をした。TPP11ではバイオ医薬品の保護期間、著作権を70年以上に。国が企業への投資許可・合意に違反した際の紛争解決手続。いわゆるISDS条項。地方自冶体の公共調達の外資開放の再交渉などを凍結。国有企業の扱い。石炭産業のサービス投資ルール。文化保護のための国内企業優遇。労働の紛争処理などを継続協議とした。

TPP主要国のカナダのトルドー首相は最後の段階で「TPPは合意できる段階にない。」「合意はできない」「TPPは我々が目指す世界と違う」「TPPはそもそも問題が多い」と言明。結局首脳間の合意ができず、結論は将来に持ち越された。(朝日新聞11月12日)
日本はAPECの場で一気に関係国首脳の同意を取り付け、その余勢でトランプ政権がTPPに復帰するよう動く作戦だったようだが、安倍政権のもくろみは見事に外れた。それでも日経新聞は「TPP19年の発行目指す。米抜き大筋合意で閣僚声明」「メガFTAアジア太平洋で初」「TPP11企業に追い風」「車、食品輸出に弾み」(11月12日朝刊)などと希望的な報道をしている。しかしTPPの前途は楽観できないと思われる。

11月5日に青山学院大学で開催の北東アジア研究ネットワーク第12回年次研究大会に参加の米コロンビア大学ジェラルド・カーテイス名誉教授は「米国がTPPに回帰することは現政権はおろか次期政権でもあり得ない」と断言した。
従い日本政府はトランプ政権がTPPに回帰するとの甘い期待をすべきでない。TPPは妥結に時間もかかり、困難もある故、むしろ中国、インド、豪州、ニュージーランド、韓国、日本およびASEAN10カ国の主要16カ国が参加するRCEP(東アジ地域包括的経済連携)の実現に尽力すべきだ。そのうえで21カ国地域参加のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構築に尽力することが肝心と思われる。APEC首脳会議ではトランプ大統領は中国の「一帯一路」を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」戦略を提唱した。日本は中國と対抗するのではなく、「一帯一路」、「AIIB」への協力の方策を検討する時期に来ていると思われる。
21世紀アジアの時代に向けて中国との協力を真剣に考えるべき時期が到来している。

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