[時代刺激人]ITプラットフォーマーが時代を動かす?日本はプラットフォームで社会制度設計を<牧野義司>

2018.7.6時代刺激人:牧野義司東論西遊

<時代刺激人コラム>第300回 2018年4月24日 経済ジャーナリスト 牧野 義司

ITプラットフォーマーが時代を動かす?日本はプラットフォームで社会制度設計を
インターネットと物流を結び付けてeコマース(電子商取引)、ネット通信販売ビジネスを展開する米国IT(情報技術)大手、AMAZON(アマゾン)の動きがすさまじさを増し、米国や日本などでさまざまな波紋を呼んでいる。オンライン書店スタートで、当初は大量の本の在庫を抱えたビジネスを危ぶむ声があった、というのに、その後、ネット上で総合スーパーマーケット化し、同じ米国内で実店舗網を持つ大手スーパー、WALMART(ウォルマート)の経営を揺るがす存在になったのだから驚きだ。このITを駆使してネット上でビジネス展開する数多くの企業をプラットフォーマーと呼ぶのをご存じだろうか。

米GAFA4社に中国BAT3社が加わり、米中IT企業が世界の経済市場をリード
プラットフォーマー代表格は米国のGOOGLE、APPLE、FACEBOOK、AMAZONの4社だ。頭文字をとりGAFAという。ネット通販のみならず情報検索、情報通信とビジネス形態はさまざまだが、ネットサイトへの利用者アクセス数がケタ外れに多く、その通販履歴などビッグデータを活用し収益につなげている。巨額利益をすかさずシェア拡大や次世代技術分野への投資につぎ込む機敏さがある。企業価値を見る指標の株式時価総額ランキングでも世界トップ5社のうち4社を、これら企業が独占しつつあるのだからすごい。

しかしこれは米国に限った話ではない。社会主義と市場経済を巧みに使い分け国家資本主義国といわれる中国でもIT企業のバイドゥ、アリババ集団、テンセント3社(頭文字をとってBAT)が後発ながら、人口13億人の巨大消費市場にプラットフォーマーとして登場し一気にネット通販ビジネスなどで巨額利益をあげ、今や中国ニューエコノミーの担い手となっている。こうした米国と中国のITプラットフォーマーたちは、新しい経済市場を生み出し、時代を動かしつつある。インターネットの時代が作り出したビジネスモデルだ。

インターネットサイトでネット通販や情報検索サービス、SNS会員交流を展開
そのビジネスの仕組みは、インターネットでつなぐサイトを立ち上げ自社ビジネスだけでなく自社に不足するコンテンツを補完してくれる企業を参入させ、製品やサービスに厚みをつくって不特定多数の利用者向けにネット上にショッピングなどの場をつくる。AMAZONが典型例だ。一方、FACEBOOKはサイトにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という交流の場をつくり、21憶人の会員数を武器に企業広告とリンクして利益につなげている。GOOGLEはインターネットで結ばれた世界中の情報をスピーディに検索する検索エンジンが強みだ。プラットフォーマーはまさに事業仕掛け人と言える。

私の中古書購入事例がわかりやすい。数年前に出た本を東京都内の書店に買いに行くと、2000円で定価販売している。ところがネット上のAMAZON書籍コーナーを検索すると同じ本が全国の中古書店から出品され、送料は別で本の傷み具合により800円、600円価格がついている。私は中古書にこだわりがないので、すかさず買う。間違いなく便利だ。
要は、AMAZONの場合、国内中古書店と契約してプラットフォームに参入させ、自社取り扱いの新刊書に中古書を加え層の厚みを演出する。他方で本の在庫を抱える中古書店には利用者紹介のメリットを与えWINWIN状況をつくる。そしてネットでつながる不特定多数の利用者に利便性を提供、同時に自身はデータベース活用でも儲けるビジネスだ。

学ぶべきはビッグデータ活用、出遅れ日本はプラットフォーマー登場し新モデルを
角度を変えれば、これはプラットフォーム上でのオープンイノベーションだ。それにしても米国や中国のITプラットフォーマーがインターネットを縦横無尽に活用してビジネス展開し時代を大きく動かす現実は驚きだ。なぜ日本企業は出遅れてしまったのだろうか。私の見るところ、ネット上での他企業との事業連携というオープンイノベーションに消極的かつ警戒的なことが響いている。自前主義へのこだわりが強すぎるのだ、と思う。
経営コンサルタントの平野敦士さんは著書「プラットフォーム戦略」(東洋経済新報社刊)で、「モノづくりが主役で、ソフトウエア開発は下請け事業、受託事業という日本の発想に問題がある」と述べている。同時に「(自動車産業などでは)確実にハードウエアからソフトウエアへと価値のシフトが起きている。それに対応するにはメーカー発想からプラットフォーム戦略思考へと発想を転換することが必要だ」とも述べている。重要な指摘だ。

日本ではコマツがNTTドコモなどとLANDLOG という新会社を立ち上げ、メーカー主導で独自のプラットフォームに取り組んだのは救いだが、今後、IT企業に限らず日立製作所などのモノづくり企業がプラットフォーマーとして本格登場し、ネットとモノをつなぐIoTや製造業のサービス化を大胆に進め、ビッグデータ活用で新時代を切り拓くべきだ。

中国IT企業の個人信用情報管理システム「芝麻信用」が相互不信社会を変えた!
ビッグデータ活用という点では、中国ITプラットフォーマー事例が面白い。富士通総研の中国人エコノミスト柯隆さんによると、アリババ集団傘下のアント・フィナンシャル・サービスがネット通販などの支払いをアリペイというモバイル決済システムでサービス化し、その利用客の支払いデータをもとに個人信用情報管理システム「芝麻(ゴマ)信用」をつくった。これが意外にも相互不信の強かった中国経済社会を変えた、というのだ。

端的にはモバイル決済支払いデータをもとに顧客信用度を数字化し700~950点ならば「信用極好」とした。5段階に格付けし信用度に応じ宿泊ホテルチェックイン時の担保金不要など数多くのメリットをつけた。すると中国人の意識が変わり信用評価点数を上げるため引き落とし口座残高をゼロにしないなど自助努力が始まった。他人を信用しない中国社会で他人への気遣いなど意識変革が生じた。ビッグデータ活用のプラス効果だ、という。

FACEBOOK会員情報が流出し悪用事例、中国などで社会監視に使われるリスクも
しかし話はバラ色ではない。これらプラットフォーマーたちのビジネス展開がさまざまな弊害、問題を引き起こしていることも事実。このため、もろ手を上げてプラットフォーム・ビジネスやビッグデータの活用を、とはいかない部分がある。
とくにビッグデータに関して、メディアで報道されたとおりFACEBOOKの会員情報8700万人分が外部に不正流出した。間違いなく大問題だ。英国選挙コンサルタント企業が、ある顧客先の依頼で米国人会員データ情報を入手し、2016年の米大統領選挙で現大統領トランプ氏の陣営に有利に働くように利用したのではないか、という疑惑が浮上した。報道では、その選挙コンサルタント企業幹部は、EU(欧州連合)からの離脱を問う英国民投票でもビッグデータを使って離脱に動くように操作した、ともらしているという。データ活用が転じて、大衆の意識操作に使われたとしたら重大問題で、真相解明をすべきだ。

ビッグデータが社会監視に使われるリスクもある。中国の場合、「芝麻信用」でプラス効果があったが、共産党政府は空港など主要施設に監視カメラを置き映像データを不審人物の顔認証チェックに使っている。スマホによるモバイル決済の個人信用データには職歴や家族構成の個人データがあり、それらも監視の活用対象になる。まさにもろ刃の剣だ。

ITプラットフォーマー巨額所得の捕捉に難、EUの欧州委は「デジタル課税」で対応
問題はまだある。ITプラットフォーマー企業の稼ぎ出す巨額利益に対する所得捕捉が難航している。OECD(経済協力開発機構)の専門委員会はかなり以前から主要国共通の問題として議論してきたが、最近、EUの欧州委員会がAMAZONなどIT企業を対象に「デジタル課税」(仮称)案を公表した。EU域内での売上高に課税しようというものだが、EU加盟国全体の承認が必要な上に、IT企業本社の多い米国の政府が「新たな税負担は米国経済成長にブレーキをかける。容認しがたい」と批判的だ。利害がからみ情勢が流動的だ。

以前、話を聞いた旧大蔵省の税制スペシャリスト、森信茂樹中央大特任教授によると、物流配送センター倉庫をベースに営業するAMAZONの場合、国際課税の原則では物流倉庫は課税対象の恒久的施設とみなせず、事業所得に課税できない、という。しかし巨額利益を上げているのは事実で、税逃れに歯止めをかけ国際的に課税の公平を期すべきだ。

日本は高齢社会の制度設計モデルを! プラットフォームで「場」づくりが重要
さて、ここでITプラットフォームに関して、私なりに視点を変え問題提起してみたい。私は、人生100年時代という高齢社会に対応して、高齢者を中心に誰もがインターネット上のサイトで自身の人生2毛作目、3毛作目のプランづくりが行えるプラットフォームを、と考えている。早い話がプラットフォームを人生再出発プランなど制度設計の場に活用せよ、と申し上げたい。名付けて「人生100年設計プラットフォーム」(仮称)だ。

人口の高齢化が急速に進む日本の現状を見ると、社会システムや制度が旧態依然として高齢者対応ができていないのが現実だ。最近、東大元総長の小宮山宏さんが新たな成熟社会モデル「プラチナ社会」をめざして取り組むプラチナ構想ネットワークのシンポジウムに参加した際、パネルディスカッションで紹介のあった神奈川県川崎市の調査に驚かされた。65歳以上の市民25万人のうち75%が非就業者で、定年退職後も仕事を続けたい人の割合が71%、とくに70歳まで働きたいが40%だった。「働きたくても働く場がない」現実が見えてくる。高齢社会でもアクティブに過ごしたい人たちへの制度対応がないのだ。

アクティブシニアになるためのマッチングサイト、コンテンツ次第では面白くなる
高齢者の人たちにはいろいろな生き方がある。勤め仕事におさらばして勝手気ままに自由なライフスタイルを望む人もいれば、病気との闘いを余儀なくされる人、さらには退職金が底をつき始め、頼りの年金生活も限度があって生活資金確保のために新たな再就職の場を見つけざるを得ない人などさまざまだ。しかし人生100年時代で「長い老後」が現実化したのは紛れもない事実。それに対応する社会の制度設計がますます重要になる。

そこで私が考えたのは、今回取り上げたインターネット上のプラットフォームを活用して「人生100年設計プラットフォーム」だ。民間主導でつくり、そのサイトにいろいろな企業や自治体、NPOグループなどの参加を得て、たとえば再就職先の企業探しサイトのみならず、自治体の有償の地域貢献プロジェクト、アクティブNPOの事業紹介、さらには社会人大学ゼミ、失敗事例研究のような研究会、シニア目線のベンチャービジネス立ち上げのための交流広場への参加チャンスなどを作り出し、高齢者がいきいきとアクティブシニアになれるマッチングサイトだ。高齢者は「お荷物」でないことを示す「場」づくりだ。

中国など高齢社会化が進む国々への先進モデル事例つくれば日本評価も高まる
コンテンツ、それにサイトの枠組みをどういったものにするかが問われる。でも、やり方次第で人生100年設計の面白いプラットフォームができると思う。高齢者は、今やスマホでインターネットにつなげることが可能な人が多い。チャレンジしてみる価値はある。

高齢社会の制度設計が十分できていない日本だが、プラットフォームの多機能の枠組みを活用すればいいのだ。中国など高齢社会化が進むアジアの国々にとって先進モデル事例となるのは間違いない。日本の評価も高まる。大事なことは、アクションを起こすことだ。

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