『一帯一路』研究の現状 2018年4月17日 中川十郎

BIS論壇 No.254 『「一帯一路」の現状』2018年4月17日 中川 十郎

尖閣諸島問題の関係悪化で途絶えていた「日中ハイレベル経済対話」が4月16日、8年ぶりに東京で開催された。中國側からは王毅国務委員(副首相級)兼外相、日本側からは河野太郎外相が中心となり参加した。しかし会談は「貿易戦争回避では一致」「RCEPの交渉加速」「自由貿易具体論で溝」(日本経済新聞4月17日)、「個別議論すれ違いも」(朝日新聞 4月17日)と個別テーマはすれ違いに終わったとの見方がある。
5月に東京で久し振りに開催される日中韓首脳会議の準備会議の意味もあった。しかし、日本側は習近平主席が主導するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に対しては「ケースバイケースで協力する」とかわしたという。逆に中国の「一帯一路」への日本の対抗策ともみられる、アジア、アフリカ地域の安定と経済成長を目指す安倍政権の外交政策「自由で開かれたインド太平洋戦略」の意義を強調したとのことである。(朝日新聞 4月17日)

今年1月、一帯一路について中国北東の天津で、4月、一帯一路の西の玄関口である西安と近代農業開発に注力する楊凌を訪問し、中國の一帯一路が5年目を迎え、急速に動きだし、アジアから中央アジア、中東、東欧、ヨーロッパへのユーラシア物流網が整備され、物流、貿易、インフラ建設が進みつつある現状より、日本も出遅れることなく「一帯一路」構想、これはプロジェクトの融資を担当している「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」への積極的参加を期待していた筆者にとっては今回の会議の結論はもの足りないものを感じた。
「一帯一路」構想は発足から5年を経て6つの経済回廊の経済効果は国連のESCAP試算では1.2兆ドルに及ぶという。この構想はユーラシアとアジアの陸海物流網構築から北極海航路を中心とする「氷上シルクロード」建設に加え、中國とラテンアメリカ大陸を結ぶ[太平洋海上シルクロード]へと広がりと深みを見せておいる。(富士総研 金 堅敏 首席研究員)86の国と国際機関が参加し、まさしく地球規模でのグローバル物流網構築が動き出している。ユーラシアの6地域の経済回廊をまとめ、64か国に関係している壮大な計画である。「一帯一路」構想は大13次5か年計画(2016~2020)に組み込まれた。さらに2017年10月には中国共産党規約に記載され、中國国家の長期重点プロジェクトとして動き出している。
また21世紀のデジタル経済を振興する「デジタル・シルクロード」の提案されリアルとバーチャルの立体的構想に変貌しつつある。
さらに陸・海・北極海氷上シルクロードに加え、空を加えた陸海空、バーチャル・シルクロードが動きだしている。2018年5月23~25日には北京で空のシルク・ロード「2018中國・欧州航空サミット会議(IAR CHINA-EUROPE AVIATIONSUMMIT)が開催され中國~欧州の航空シルクロード物流の拡大について協力法が討議される。(中国民航報、4月11日号)かかる趨勢を十分認識し、日本としては、諸外国に出遅れることのないよう、ユーラシア物流経済圏構想「一帯一路」への参加を真剣に考えるべき時である。

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