2018.4.12東論西遊, 異なる視点論点:朱建榮
「異なる論点視点:朱建榮」⑥20180412
今年の中国では、今後10年ないし数十年に影響が残るような大きな出来事が起きているような気がする。国家主席の任期撤廃。金正恩・北朝鮮党委員長の電撃訪中。いよいよ世界一をめぐる米中間競争の幕開けを思わせる貿易戦争(の掛け声)など。この号は特に、国家主席の任期撤廃をめぐって、日本であまり取り上げられていない様々な視点を紹介したい。
今年3月5日から20日まで、中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が開かれた。全人代常務委員長(国会議長)ら一連のトップ人事、汚職腐敗対策の制度化を意味する国家監察委員会の新設、朱鎔基元首相時代以来の大規模な行政機構改革、今年はさらに1000万の貧困人口を減らす公約など、中国は「国強民富」と謳う習近平主席が指導する新時代に突入したことを強く印象づけた。
そのうち、内外の最大関心事はやはり憲法改正と国家主席任期の撤廃だった。わずか2票の反対、3票の棄権で圧倒的な賛成多数で憲法修正案が採択されたが、改憲に至る過程には、直前になっての公表、反対意見の報道抑制など、不明な点が残り、知識人の多くは、文革の教訓で取り入れた権力への規制が弱まることを懸念している。一方、民衆の大半は、生活がさらに改善され、腐敗抑止が続けば、トップの任期延長に特に強い異論はなく、むしろ支持している。
注目の焦点は、すでに「核心」の地位を獲得した習近平主席はなぜリスクを負って任期撤廃に踏み切ったのか、である。これについて見解が分かれるが、常識的に見ても、21世紀の世界と中国においてただ「独裁」の地位を楽しむための権力集中とは考えられない。実際、これによって今後の国家運営に、すべての責任を引き受けたことになり、自ら逃げ道を閉ざしたことも意味する。
習氏が取り組む次の「大仕事」と関係するとの指摘が出ている。
- VOA180228時事大家談:三中全會深化機構改革,習近平集權辦大事?
米政府が出資する対中放送VOAは一応、中国に批判的と擁護的の二人の代表的論者を呼んで対談をセットしたが、立場の違いを超えて、意外にも結論の一致する部分を見せた。一人は米国に本部を置く「博訊新聞網」(米政府から資金援助を受けているとWikipediaが伝える)の創設者である韋石で、彼は中国批判を展開した上で、次のように述べたとVOAのHPで要約された。
外界對習近平這次機構改革有很高的期望值,有人説是中国歴史上規模最大的政治改革或機構改革。韋石表示,從中国歴史長度來看,比較大的政治改革有秦始皇統一中国結束封建專制、隋唐的科舉制、清朝滅亡後的民国選舉制,中共以來真正的政治改革是胡耀邦時期的党政分開,到今天是難以想象的。今天有一些倒退的跡象,比如劉曉波,楊天水等,還有維權律師的抓捕等。至於習近平有沒有這個魄力和能力,從他打撃了這麽多高層,可以看出來他是。有人説,改革必須要先集權。習近平往前走改革畢竟比倒退容易得多,它與朝鮮不同,對因特網的管控沒法很嚴格。如果選一個正確的方向走,習近平會得到上上下下的支持,而不是提心吊膽,對各個階層不信任。希望他將來能選一條青史留名的道路。
要旨:
- 習近平氏の主導する改革は中国の2000年歴史上の大改革と比較されており、それを断行する気迫と能力を習氏は持っている。これほど多くの高級幹部を(反腐敗で)摘発したことから見て、彼がそれをしようとしていることを認める。
- これからの改革を推し進めるには権力集中を先にしなければならないとの分析が出ている。懸念もあるが、見守る以外にない。
確かにこれから中国が「中所得国の罠」を乗り越えて先進国の発展段階に躍進するにはハードルが高い。これまでの30年間より、もっと対処し難い課題ばかり(「改革進入深水区」)。そこで全人代の採決で多くの代表は、不安を抱きながらも期待を込めて「お手並み拝見」で賛成票を投じたのではなかろうか。
もう一人の胡星斗(北京理工大學經濟學教授)も、「中国国内では、『権力を集中したからには、大きな課題に不退転の決意で取り組んでほしい』との声がある」と紹介している。
国内有人呼籲習近平:既集大權,請辦大事。胡星斗説習近平能不能解決中国政府機構臃腫,官員數目龐大還是個小事,關鍵還是能不能辦大事。習主席是有可能青史留名的,是可以往前走的。目前中国最大的事是如何避免可能的社會動亂,實現長治久安,怎樣解決中国的歴史周期律。目前中国還沒有走出秦始皇的郡縣體制。習主席完全有權力也有能力指向真正的市場經濟和法制改革。十八屆三中全會和四中全會的決議就非常好,現在就是要把它們落實。落實就是在走向通往現代国家制度的路,保證中国長治久安。這是他要辦的大事。
当面は権力集中せざるを得ない内部事情もあると、台湾系『世界日報』の社説が分析している。「スーパー強国」という夢を実現するためには習主席は大改革の断行を決意しており、それに対する最大の阻害勢力は、既得権益を絶対手放したくない「赤い貴族」だと判断し、この集団との対決には隙を見せることなく、権力を一段と集中する必要がある、との解釈だ。
- 世界日報社論180303習近平這盤大棋 威權延任建超強中国
やや長いが、この社説の大半を引用する。
平心而論,聽到「強国夢、輝煌盛世」,很多大陸民衆不在乎国際情勢,心中的民族主義火苗即燃起,「好官應該終身任職」,不假思索地支持延任。但破壞制度繫於一人,對国家風險多大?人民權利會受什麼影響?想藉專制集權「富国強兵」,引來外国提防。
習核心的「強国夢」,或許和外界理解不同。基本有兩手:左手連續鞏固中央權力;右手對安邦、海航等集團整肅清理,不難看出習近平似在下一盤很大的棋。簡單説,藉反腐整治不同勢力,然後廢集體領導制,再拿特權和最可能串連反對一人集權的「紅色權貴」開刀,整治「資本怪獸」,強烈震懾反對力量;實現終身掌權後,經濟也一手抓,把中国改造成比毛澤東時代更左、更不同的「超級強国」。
政治上,習近平已肅清敵對勢力,如周永康、薄熙來和軍方將領,定於一尊。經濟上,權力伸向紅二代,「反腐永遠在路上」,大刀高高舉起,任何反對者都可被找到把柄,以反貪名義整肅,在位者、幕後權勢人物和「白手套」都一樣,安邦吳小暉就是例子。
當前中国政局,能撼動習近平和干擾決策者,不是普羅大衆或異議聲音,而是紅色權貴。
整肅紅二代既爭取民心,也達多重目的。有獨立學者指出,整治安邦、海航,警告元老和太子党無條件擁戴最高領袖之外,最終可能出現一種統制經濟(controlled economy),即中共權力超越一切,包括国企、民企,私企不是「大到不能倒」,而是不能大,或即使大了,卻須為政治總目標服務。
中国或不致退回毛時代的全面公有制,卻可能誕生類似新加坡淡馬錫(政府100%控股的投資)主權基金,取代国資委之類官僚控制,在「混合經濟」下控制傳統国企,為「一帶一路」戦略服務。以經濟統制模式,適應政治集權結構。一旦修憲通過,習近平終身掌權,後面應會有更多「驚奇」措施出台。
中国有20多萬家国企,壟斷電信、石油、銀行、鐵路、海空運等,單一国企即富可敵国;即使国企總負債90多萬億,但資産、土地總值即達天文數字,加上俯首聽命的民企、龐大稅收、14億人口市場和産值,擴充軍備、強化軍隊,上下齊一,如完成統一台灣、超越美国,將成曠古未有的「超級大国」。政府專制、人民馴服,有如放大十數萬倍的新加坡。這才是中国的偉大復興。
要旨:
- 中国民衆の多くは「強国」「盛世」を目指す語る指導者の任期延長に反対していない。
- 習近平氏の「強国の夢」はどうも一般的な理解を超えるものがある。その目指す政治体制は「十数万倍も大きいシンガポール」モデルではないか。
- 習氏はすでに「赤色権貴」(赤い貴族、太子党と絡む利益集団)にメスを入れ始めた(「整治安邦、海航,警告元老和太子党無條件擁戴最高領袖」)。そして習氏の地位と政策決定を妨害できる唯一の勢力はまさにこの「赤色権貴」(「當前中国政局,能撼動習近平和干擾決策者,不是普羅大衆或異議聲音,而是紅色權貴」)と認識されている(権力を集中する理由)。
日本の一部は、とにかく「任期延長」イコール「独裁」、だから悪い、という「連想ゲーム」で思考が停止している。しかし中国では歴史上、重大な改革を進めるのに必ず既得権益層とぶつかり、それによる死に物狂いの抵抗と闘いが繰り広げられてきた。この「国柄」と思考様式も知っておかなければならない。
いつも中国に辛口なアメリカ在住の評論家何清漣も似たような分析を提示した。
- 上報180312何清漣專欄:「粉紅財團」生死劫背後的權力鬥爭
http://www.upmedia.mg/news_info.php?SerialNo=36691
国務院發展研究中心企業研究所副所長張文奎發表《中国要警惕粉紅財團 否則可能發生危機》一文,因文中首次區分「紅色財團」與「粉紅色財團」,敏鋭一點的觀察人士立刻明白中国政府將重點整頓哪類「金融大鱷」了。
張文原標題是《宏觀病症的微觀病灶:財團化與金融風險隱患》,文中提到,中国經濟有兩個微觀病灶,其一是大量的僵屍企業;第二個微觀病灶就是財團企業。(中略)
紅色財團,是指国有企業特別是央企財團,多列入中国500強甚至世界500強,涉及金融證券、房地産、国際貿易,共計90多家,每家央企下面平均有500多個法人企業,這些国有企業是中国政府的財稅支柱,被中国官方稱之為「共和国長子」。「與政府或政府官員有密切聯繫的可以算是淺紅色財團。(中略)由於中国資訊不透明,他們背後有什麼人,国内媒體不敢報導。但西方媒體卻從各種管道得到資訊,明天系、阿裡系、安邦系、萬達集團等等,都是《紐約時報》近年用深度調查報導揭了底牌的粉紅色財團。
吳小暉的安邦崛起迅速,因吳善於利用「鄧小平的外孫女婿」這一身份資源,2003年以3億人民幣資本起家,至2017年,資本擴張成9000多億,成為擁有金融全牌照的大財團。
王健林的萬達背後是一群靠山。據《紐約時報》記者傅才德長達數年的調查,其股東包括前中共政治局常委賈慶林、全国人大副委員長王兆国,現任中国最高領導人習近平的姐姐齊橋橋及其丈夫鄧家貴(2009入股,2012年退出),前国家主席胡錦濤之子胡海峰控制的一個基金會、中国前總理温家寶女兒溫如春的商業夥伴金怡等。
肖建華,享有「資本市場超級白手套」之稱,其資本帝国號稱「明天系」。2014年6月4日,《紐約時報》記者傅才德在《被六四改變命運的商人肖建華》一文中披露,肖建華頻繁利用「殼公司」作為投資工具,掩蓋真正股東身份的投資方式。行内早就猜測肖擁有特權,能夠參與涉及国有資産的交易,並與統治階層的家人共同獲益。肖建華本人承認的商業夥伴就有前政治局常委曾慶紅的兒子曾偉,他曾出面代曾偉收購山東魯能電力,以30多億代價鯨吞估值高達700多億的魯能。與他有商業關係的還有前中共政治局常委賈慶林女婿李伯潭,中国人民銀行前行長戴相龍的女婿車峰等。
創造了淘寶網的馬雲,一直以依靠市場開拓致富的形象出現,傅才德在《阿裡巴巴上市背後的「紅二代」贏家》(《紐約時報》,2014年7月21日),涉及的紅二代有中共八大元老陳雲與王震的兒子、前總理 溫家寶兒子溫雲松、中共政治局常委劉雲山之子、前政治局常委兼中紀委書記賀国強兒子賀錦雷、前国家主席江澤民的孫子江志成(Alvin Jiang)的博裕資本。
以上的粉紅色財團,在江澤民與胡錦濤兩代領導人執政的20年中,通過中共家国一體的利益輸送機制獲得大發展。習近平2012年10月接任中共總書記之後,從2013年開始反腐,清除了170名部級及副部級官員及附從商人,但並未動觸動這些粉紅色財團。但這些粉紅色財團因為恐懼,開始向外轉移資産。
習近平不久後提出「重構政商關係」的構想。
于習近平來説,政府正在盡全力防止金融風險,力阻外匯流出,但自家權貴資本不僅不為国分憂,反而加速挖坑,是可忍,孰不可忍?因此,「重構政商關係」的重點就是整頓金融領域,怎麼吃的,就讓怎麼吐,財富轉往国外者先吐。吳小暉的安邦現在已經被中国保監會接管,王健林正在變賣資産償還債務。衆多權貴的「超級白手套」肖建華曾躲在香港四季酒店避風數年,終於在2017年2月被中国當局從香港秘密帶回中国,目前的任務是交待各家帳本的明細帳目。
中国有句老話,「奪人錢財,有如殺人父母」,這些「粉紅財團」的生與死,背後卻是習近平與紅色權貴及江胡時代老權貴之間的激烈鬥爭。這種鬥爭正在繼續,並將貫串習的第二個任期。如果脫離這點來分析2018年兩會的修憲波瀾,基本是冬烘之論。
本論は、習近平指導部は近頃、鄧小平ファミリーの呉小暉が握る安邦集団、王健林が会長を務め賈慶林ら長老が絡む「萬達集団」、大富豪の肖建華などに相次いでメスを入れたことを検証したうえで、「その背後に、習近平氏と赤い財閥および江沢民・胡錦濤時代の特権グループとの熾烈な闘いが隠されており、その闘いは習近平政権の次の5年間に継続されていくのが必至」と分析し、「この背景を無視して今回の憲法改正を分析すること自体ナンセンスだ」と締めくくっている。
そういえば、最近、習近平氏が「赤色権貴」、国有企業に本格的に切り込むことに関連する動きが出ている。
- 人民網180222習近平談家風
http://politics.people.com.cn/n1/2018/0222/c1001-29827638.html
習近平氏が親孝行することなどを讃える記事だが、二つの重要なメッセージが含まれている。習氏は以下の2点を強調していると伝えられた。
「必須反對特權思想、特權現象」(特権思想、特権現象に断固反対)
「不要以為是幹部子弟就誰都奈何不了了」(太子党だからだれからも咎められないと思うな)
もう一つは4月10日付『人民日報」の論説で、国有企業のトップに警告を与えたものだ。「一部の国有企業のトップは自分の管轄する企業を『独立王国』と見なしている」「企業の口座を個人のATMと考えている」「身内で人事を固めている」と批判し、これから「劇薬」を施し、「企業管理層における権力のチェックとバランスを構築する」といった対策を挙げている。
- 人民日報180410紅船觀瀾:国企不是任何人的“獨立王国”
http://opinion.people.com.cn/n1/2018/0410/c1003-29915479.html
これからいよいよ太子党が絡む特権階級、国営企業などの利益集団、及びその背後に隠然と潜む長老の勢力に、本格的に切り込むのか。切り込めるか。中国の進路を見極める上でも注目すべきだ。
興味深いことに、中国の権力集中の動きを今日の国際的背景の中で捉える著名なコラムニスト、フリードマンのエッセイがNYタイムズに掲載された。
- 紐約時報中文網180302托馬斯·弗裏德曼:習近平們的春天來了
(英文見出し:When the Cat’s Away.…)
これは中国語と英語の対照になっているので、「参考消息」の読者は全部読めるはずで、引用を省くが、中国のみならず、ロシア、トルコ、エジプト、ハンガリー、イランなど(もしかすると日本の自民党総裁の任期延長も=筆者コメント)で起きている似たような現象の国際的背景として、
- トランプ大統領の予測不能な恣意的行動
- 各国の安定志向
- 社会の目まぐるしい変化に不安を覚える民衆の強い指導者への期待、
- ITなどのハイテク技術の進展
と挙げている。世界的な視野で捉えるのも一つの面白い見方だ。
余談
自分は、日本と中国の近代史の流れの中で比較可能な部分を見つけた。明治維新以後、日本政府は殖産興業を志したが、金(外貨)も技術も経営者もいないことに気づき、そこで身内、親類に国有資産を「払下げ」してその力で資本の本源的蓄積(primitive accumulation of capital)に着手し、各財閥を作り上げ、政権を支える経済的土台を構築した。それに決定的な転換をもたらしたのは、第2次大戦後のマッカーサー占領軍による財閥解体だった。
1978年の中国を1868年の日本とし、1945年以後のマッカーサーを今日の習近平とダブらせてみると、中国も新興財閥を利用する段階を卒業し、その弊害がより大きいことを認識し、いよいよその本格的対策に取り込む時期に到達したのかもしれない。
もっとも、任期撤廃などのリスクを負って、力ずくで押しつぶすといった手法で、果たして21世紀型の先進国入りを果たせるか、今後5年間の実践を見守る以外にない。
(終わり)
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