編集人兼発行人・湯浅次郎様への書簡 2018.12.4

『選択』編集人兼発行人・湯浅次郎様への書簡

2018年12月4日

貴誌2018年11月号掲載の「一帯一路『親中派工作』の深謀―中国に『懐柔』される日本学術界」(同、34~35頁)を拝読。事実誤認と「一帯一路日本研究センター(BRIJC)」と、その母体「国際アジア共同体学会(ISAC)」とに対する中傷に充ちた(貴誌の一部執筆者のよる)論説と言わざるを得ず、失礼を顧みませず一筆とりました。
貴誌定期愛読者の一人として、「三万人のための情報誌」を謳う貴誌には似つかわしくなく、事実情報確認も全くなされていない、中傷記事の印象です。あえてここに尊敬する湯浅次郎様宛て一文を草する次第です。

(1)学会の基礎的事実の誤り
「国際アジア共同体学会」が「2003年にスタート」とありますが、本学会の設立スタートは、2003年ではありません。2003年12月に「アジア共同体研究会」や、2004年5月に外務省主導の『東アジア共同体評議会』は発出していますが、「国際アジア共同体学会」は設立され発足スタートしたのは、2006年12月開催の設立大会においてです。
また学会が「福田康夫元首相、鳩山由紀夫元首相を後ろ盾にスタート」とありますが、鳩山元首相には、2013年より学会名誉顧問にご就任頂きましたが、福田元首相は、最近ご協力ご指導いただいておりますが、学会の顧問でも役員でもありません。
加えて学会が「『日中関係の改善が大きな目的』とありますが、正確ではありません。発足当時から、その「大きな目的」は「日中関係の改善」ではありません。中国や韓国、ASEAN諸国も包摂したアジアの地域協力・提携の推進です。その目的実現のために、日中関係改善に積極的に取り組んでいます。「アジアの中に生きる日本」の道の構築です。
そのため、本学会設立時点から共同代表に、元韓国資源エネルギー省長官・金ヨンホ氏が就任、多様な協力を頂いています。国際顧問として前駐日インドネシア大使、イーザ・ユスロン氏が就任しています。また学会海外での大規模な国際会議を、国際交流基金の支援下に、準備大会が2006年ソウルで、大規模な海外会議が2008年バンコク、2010年ジャカルタで各々現地大学の協力を得て開催しています。「中国に取り込まれて、代弁者化しつつある」というのは、本学会の目的、趣旨、現状と研究の実態に対する「半知半解」で、いわれなき中傷と言わざるをえません。

(2)産業界に関する誤り
同記事によれば、「一帯一路日本研究センター」は、「中国の代弁者として取り込まれた集団」である、と見立てています。その好例を、去る2018年9月中旬北京で開催されたシンポジウムに求め、「『一帯一路の推進』という点で、中国側の思惑通りの展開となった」とあります。しかもこの点で、「9月上旬(中旬の誤り)」北京を訪れた日本産業界の「李克強首相に注文を付けたのとは対照的で、学術界の対中姿勢の甘さ(ママ)を世間に知らしめることになった」と中傷しております。
しかし、そもそも学術界や知識人が、経済界の主張と同類であるべきだと示唆されるのは、それ自体狭量であり、本センターの設立とシンポジウムの開催や知的交流活動の現状に対する無理解を象徴しています。
本センターは、学問の中立性を堅持し「アジアの中で生き、一帯一路構想について是是非非の立場を貫く」ことを合言葉に発足運営し、研究啓蒙しています。「初めに非難ありき」の「半知半解」の記事です。特に本センターが、日本の産業界と異質な、「親中派」に取り込まれた「日本学術界」だというくだりには、苦笑を禁じ得ません。学会は、顧問として三村明夫日本商工会議所会頭や故・元駐米大使大河原良雄氏、元特許庁長官・麻生渡氏等に就任頂き、経済界や官界の助言を求め産業界や官界に提言していくことを学会の中心機能の一つにしています。
今年12月開催の学会年次大会・記念講演は、日揮副会長・川名浩一氏が、長久物流日本代表・夏紀氏とともに、ユーラシア大陸で展開し始めた脱国境的な新物流網の展開をご講演されます。そこでは、単に日中関係だけでなく、韓、露、仏の企業も巻き込んだ、日本産業界の「一帯一路への協力協働」の現実を講演して頂きます。本センターの設立と現状を理解し、「一帯一路」の展開と日本の役割を理解いただくために、貴編集部におかれましても、本年次大会にご参加いただければ幸甚です。

(3) “豪華招待”旅行という“お笑い”
同論文の事実調査のない中傷は、9月中旬の一帯一路日本センターの訪中旅行が、まるで中国側丸抱えの豪華な招待旅行でもあるかの書き方にもあらわれています。特にこれには苦笑を禁じ得ません。
9日間の訪中旅行は、全て参加者10名の個人負担。宿泊ホテルは四つ星。航空券はエコノミ―、列車も普通車。現地タクシー料金も自前で割り勘です。数名の大学院生の通訳代や宿代も、参加者の自前。最初の遼寧大学日本研究所との国際共同学会の宿舎は、質素なゲストハウスでした。
今回の論文を拝読して、改めて今日の日本人の多くが、若者だけでなく、貴誌のような高級メディアを含めて、いわば「引きこもり症候群(シンドローム)」を病んでいるとの思いを消すことができませんでした。あるいは「「日米基軸」幻想」症候群を病んでいるというべきかもしれません。だからこそ、2016年米国大統領選挙の結果を予測もできず、米現政権下でも「同盟国」の“いいなり”になり高額武器を売りつけられ買い続けている。「アジアの中で生きる」ことの枢要性も世紀の潮流も見ることができない。それが、太平洋戦争以来、特にプラザ合意以後、冷戦終結を経て「日本衰退」の根源にあるのではないのか。そんな想いに囚われました。
現状に対する批判精神の欠落や、上意下達の硬直した組織思考が、日産ゴーン事件や、ソニー、東芝などの破綻につながっている。その裏返しが、今回の一帯一路日本研究センターへのいわれなき非難中傷ではないのか。

(4)リスクと空想論を超えて
一帯一路のリスクを見据えながらも、それを日本再生の好機ととらえていく。そのため知識人やメディアは何をなすべきか。それを、学問と啓蒙の原点に据え続ける所存です。それができないメディアと知的世界の現状が、「中国に「懐柔」された日本学術会」なる中傷記事の背後にある、そんな想いに囚われざるを得ませんでした。逆にだからこそ、著名な中国専門主流派の某東大教授が、「一帯一路構想は星座」のようなものだとか「主席のペットプロジェクト」に過ぎないとか、中国膨張主義の「赤い爪」、新植民地主義の体現だといった言説が、メディアでいまだ展開されているのだと思います。しかし「一帯一路」は、けっして「星座」のような空想論ではありません。単なる「赤い爪」や、ペンタゴン製「真珠の首飾り」論に単純化できるものでもありません。
今回現地を視察し国際会議に参加し、構想発表以来の5年間、一帯一路が着実に建設・運営段階に入っている、新しいグローバル・ガバナンスの構築を求めている。その現実を見て、改めて日本の主流派専門家やメディアの旧態依然たる硬直思考を見る思いでした。同時に本センターの設立運営の根本方針への想いを新たにした次第です。
壁崩壊後、世界は確実に変わりました。「アメリカの世界」が終わり「アジア力の世紀」が登場している。その現実をトランプ登場が象徴し、台頭中国と一帯一路の現実が指し示しています。「中国経済崩壊」論はもう崩壊しました。
わが国では、単に若者が世界に出たがらないだけでなく、知識人やメディアが、変貌する世界を直視したがらない。しかも、隣国の「シルクロード都市連盟」のような有力民間団体との交流すら忌避し論難し続けている。(ちなみに、センターHPから無断転載している貴誌37頁掲載の写真は、その民間団体との交流協定締結記念写真です)。いまだ150年前の「脱亜入欧」の世界像に囚われ、21世紀情報革命と「パクス・アシアーナ」の波をつかみ損ねているようです。
もちろんわがセンターは、「一帯一路」構想の欠陥や、特にそのガバナンスの欠如を批判し、建設的提言も積極的に行っています。中国の学会やシンクタンクは、むしろそうした批判や建議を“先進国”日本に求めています。ちなみに、センター共同著作『一帯一路からユーラシア新世紀の道』(日本評論社刊)では、全編の論文冒頭に単に「要旨」だけでなく「政策提言」を必ず建議する仕組みをとっています。もし今後必要が御座いましたら、貴誌一部執筆者の主張や叙述に反論する機に対応したく存じます。

幸い本センター立ち上げと前後して、私たちが予期し想定した通り、内外の潮目が変わり始めました。
10月下旬の私たち第二次訪中旅行と時を同じくして、安倍首相一行が、450名の経済人大型訪中団を引連れ北京を訪問し、李総理、習主席を相次いで会談。一帯一路への日本の原則協力参加の方針を打ち出し、第三国日中協力で合意しました。首脳会談では、東シナ海ガス田共同開発合意の「完全堅持」、両国通貨スワップ協定の再開などに合意しました。同時に北京「第三国市場協力フォーラム」では1400人の日中企業集団が参加し、「タイのスマートシティー開発」など52案件に調印しました。一帯一路を軸に日中関係の雪解けが始まっているのです。
私たち「一帯一路日本研究センター」の志と建議が体現されつつある想いです。
数年前、貴誌冒頭の「編集長インタヴュー」で、安直なTPP参加論を批判建議する幸運に恵まれました。貴誌が今後も、「三万人のための情報誌」として官界や産業界に変わらぬ「志」を維持し体現し続けることを祈念し擱筆します。

一帯一路日本研究センター代表・国際アジア共同体学会会長
進藤榮一(筑波大学大学院名誉教授)

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